ご挨拶

長崎大学 中村典生

2025年度より2期目(2年間)の会長を拝命しました長崎大学の中村典生と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。

現行の学習指導要領が全面実施された2020年度から5年が経過し、現在は次期学習指導要領の改訂に向けて中央教育審議会等で本格的な議論が始まっています。中教審においては、言語能力の一層の育成とともに、情報活用能力やメディアリテラシーの強化、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実などがキーワードとして挙げられています。特に小学校段階では、史上初めて高学年で外国語が教科化され、中学年から外国語活動が始まるという歴史的転換が行われましたので、この成果と課題について検証し、将来に向けた改善の方向性を示すことが重要です。本学会もこの役割を果たす必要があります。

中学校の現場からは、「以前よりも生徒が英語を使うことに物怖じしなくなった」「英語の音声に対する慣れが進んでいる」といった評価も聞かれます。これは、小学校外国語教育において音声中心のアプローチが浸透したことの大きな成果と言えるでしょう。

しかし一方で、依然として多くの課題も存在しています。第一に、指導体制の在り方です。小学校において誰が外国語教育の主たる担い手となるべきかについては、長年議論されてきました。現行学習指導要領の実施以降、働き方改革と連動した英語専科教員の加配や、教科担任制の推進が進められてきました。2023年度の英語教育実施状況調査によると、小学校高学年では学級担任が47%、専科教員が26%と、複数の形態が併存しています。さらに、中学年への専科配置も検討されていますが、「誰が教えるべきか」についての議論は経験則に基づくものが多く、体系的なエビデンスの蓄積は十分とは言えません。中教審も、今後の教科指導体制の在り方について、「専門性の活用」「柔軟な指導体制の構築」が鍵であるとしています。学会としても、こうした議論に対し、データに基づいた提言を行う責務があると考えています。

また、文字技能指導に関する課題も深刻です。現行学習指導要領解説ですでに、「小学校における音声中心の学習が、中学校段階の文字指導と円滑につながっていない」との指摘がなされています。この課題は現在ではむしろ複雑化・深刻化しているようにも見えます。学習指導要領が改訂されても、小学校における現行高学年2時間の外国語、中学年1時間の外国語活動という時間数は据え置くことが予想されます。現行と同じ時間数であることを前提に、児童のことばの学びの発達段階や心理的側面を踏まえつつ、音声から「読むこと」「書くこと」への橋渡しを意図した実践モデルや教材開発が重要です。そのためには研究と現場実践の連携が必要不可欠であり、これは多くの実践家と研究者が集う本学会の役割でもあります。

言語活動の質の確保と改善も重要なテーマです。2023年度の実施状況調査によると、言語活動は小学校で90%以上、中学校で75%以上の授業において授業時間の半分以上行われています。しかしその内実を見れば、単語の暗記やパターンプラクティスなど、真の言語活動とは言い難い実態も散見されます。「思考を伴ったアウトプット」によってこそ、学びが自己の課題意識につながり、それを乗り越えるプロセスの中で個別最適な学びとそれに伴う深い学びが実現されます。量だけでなく言語活動の「質」の改善を、実践・研究成果を通して本学会から発信して行きたいと思っています。

さらに、新たな課題として浮上しているのが生成AIの利活用についてです。文部科学省は2023年7月に「初等中等段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」に続けて、2024年12月に「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」を策定しました。そこでは、資質・能力の育成に資するAI活用のあり方について、具体的な教育場面ごとの指針が示されています。今後、生成AIは外国語教育においても有効活用が期待されています。私たちに問われているのは、「AIを英語教育の仲間として、どう引き入れるか」という視点です。中教審でも「AIとの共生的活用」「教師の役割の再定義」が議論されています。文部科学省が実施している「AIの活用による英語教育強化事業」などとも連動しつつ、学会としては、企業や研究機関と連携した実証的研究を通じて、現場の実態に即した指針や教材の開発を進めていく必要があります。

小学校英語教育学会は、現場の実践家と大学等の研究者が、理論と実践の往還を通じて語り合える貴重な場です。中央教育審議会の議論を傍観するのではなく、学会として実践・研究成果を発信していく必要があります。これからの日本の小学校英語教育の理論的・実践的基盤を再構築し、会則にある「小学校における英語教育の理論と実践を研究し、小学校英語教育の発展に寄与する」という理念の実現のために、会員の皆様と進んで行きたいと思います。どうかよろしくお願い申し上げます。